もういいかい


              もういいかい







          まあだだよ



      まあだだよ















  














隠れ鬼


鬼から隠れる



身を潜める




「梵天―――」




見つからないように





「梵天丸、どこにいやる?」




つかまらないように


息を止めて身を縮め、震えを抑えながら




―――母様 母様

       梵天は良い子にします

     だから どうか  どうか………









カラリ




「―――っ!」




小さな身体を、幼い身を隠した飾り棚の戸が開けられる



逆光に母の顔


表情は見えない




「おお、こんな所に………」




けれどその声は




「童がおるとは」




酷く静かで




「のう童、妾の梵天丸を知らなんだか?」




正気と紛うほどに静かすぎて




「そなたのような片目が醜く潰れておらぬ、妾の子はどこにおる?」



「母様………」




遊戯は終わる


隠れた子供は鬼に見つけられる そこで終わる




けれど







「母様、梵天は良い子になります。だから…」





鬼に見つけられなかったらどうなる




「だから梵天を見つけて下さい。梵天はここにおります」


「そなたが妾の梵天丸であるはずなかろう?」



隠れた子供は見捨てられたまま














「政宗殿」

「―――っ」


呼ぶ声に、意識が戻る  記憶が掻き消え今へと目が覚める


「幸…村?」


目を奪う「あか」

赤い紅い鬼が、己の顔を覗き込んでいた。


「やっと見つけたでござる」


言い、幸村は本当に嬉しそうに笑う。

その無心さに前後の欠落に、政宗は戸惑う。


「何でお前、ここに?」


覗き込む相手を除けて身を起こせば、辺りは黒い、深い緑に包まれていて

閑と無音が耳を圧する。


ここは、人が近付かぬ奥の奥、深い森の中だと言うのに

誰にも会わぬはずなのに

隠れていたはずなのに


「こちら/米沢に着いてすぐ、政宗殿にお会いしようとしたら、政務でお忙しかった ようで」

「待ちきれずに探しに来たのか」

「はい、早くお会いしたかった故」


真っ直ぐに、何の衒いも恥じらいもなく

想いを 求めるものを口にする


それに反して政宗は


「俺が…お前に会いたくなかったら?」


息苦しさを感じていた。

もう一度、緩やかに重ねて


「お前を避けてここにいたら?」



ふとした時、政宗は酷く陰に籠もる事がある。


平時の快活さを捨てて

平時の明瞭さを捨てて


それは往々にして過去が傷口を開く時

何の前触れもきっかけもなく


ぱっくりと音立てて痛みは回復する


それを止める術はなく

出来ることは唯、一人痛みに耐えるだけ

誰にも、右目にすら見られない

遠い場所で 深い場所で

一人耐えていた



「それは…承知しているでござる」


流れるように自然な、肯定の言葉


「政宗殿を探してあちこち歩いていると、何処にでも政宗殿を慕う者がおりました。
けれど、そのどこにも政宗殿はおられない。だから逆に、一人になりたいのだと 得心がいったのでござる」


ここに辿り着いたのも、誰もいないと思ったからで


「なら何故、放っておかない?分かっていながら…」

「だからで、ござるよ」

「―――?」

「政宗殿がこんな深い所まで隠れなければならぬ程、一人でいたいと思う程
何かに酷く傷付いているから。某は、探さずにいられませんでした」



幸村は何も知らない

政宗が抱えている傷も、闇も  その実体を

けれど、抱えていることを、負っていることを感じていた



「傷付いておられるなら、傍にいて、何かして差し上げたいと思ったからでござる」


感じて真っ先に駆けつけた


迷うほどに深い、戸惑うほどに拒むこの森に在りながら


「一人で耐える痛みも確かにありますが、それではあまりにも寂しすぎる」


貴方の心が寂しすぎる

私の心が淋しすぎる


「政宗殿がどこにいようと、某は必ず見つけ出しますから、どうかその痛みを分けては 貰えませぬか?」


何の抵抗もなく、そこに収まるように、幸村は政宗の傍らに居た

その自然さが、酷く不思議だった



けれど



「……お前は強引だ」


『それ』を確かに望んでいた


「強引で、呆れた奴だ。こんなとこまで追いかけて来るなんて……」



見つかりたくない

けれど、最後には


どうか見つけて欲しい



痛みと、そして寂しさと

綯い交ぜになった子供は、鬼が来るのを待っていた






       もういいかい

     もういいかい



                  もういいよ



               もう、いいよ





「俺が嫌と言っても、どうせお前は勝手に探すんだろ?だったら……好きにしろ」

「はい!」


当然のように、嬉しそうに、幸村は破顔した。


「では、戻りましょう。片倉殿も心配される」


政宗へと、手を差し出す。


「そうだな…そろそろ戻らねぇと、小十郎の奴が煩せぇだろうからな」

遊びの時間は仕舞いだ


手を取り、政宗は立ち上がる。

そしてそのまま、見つけられた子供と子供を見つけた鬼は、手を繋いだまま深い森を 後に家路へとついた。





隠れ鬼

鬼から隠れる

身を潜める


最後はどうか見つけてお終い





















後書き

お邪魔させて頂いている絵茶にて繰り広げられた素敵幸梵話に悶え転げて勢いで書いて しまいました。ただし、かくれんぼ以外何一つ合ってはいませんが;;今回自分の中で はサナダテに分類されています。
政宗は、自分の過去の痛みになると引き籠もるとこがあるかなと。存外打たれ弱いのが 拙宅設定となっております。幸村はその経緯を知らなくとも、何となく分かっていて欲 しいなと。直感的に物事の真意や人の気持ちを察せられる聡い子が拙宅設定です。

ここまで読んで頂き、有り難う御座いました。
そして、素敵萌えを下さった皆様、有り難う御座います!







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