「返せ穴山!それは伊三のまんじゅうだ!!」

「返せ小助!それは愚僧のまんじゅうだ!!」

「チビがいっちょまえにまるまる一個食えるわけないだろ?お前等は半分で充分だ」

『ちゃんと一個食えるぞ!!』

「こらこら、まんじゅう一つで騒ぐな鬼っ子共!。片付け手伝わないんだったら三人とも まんじゅう取り上げるよ?」

はあ、やっと供養終わったって言うのに、子供は元気だねぇ


溜息混じりにこぼすと、佐助は仏前を片付けた。

今日は真田家の菩提を供養供養する日で、幸村の希望から佐助を始めとした 十勇士全員が出席した。

曰く、十人は自分にとって家族だからである、と。

その幸村は片付けを手伝いながら、不意に、


「なあ、佐助」

「何?旦那」

「早く戦を終わらせたいな」

「?そうだね、旦那としては早いとこお館様に天下を取って貰いたいだろうし」

「勿論、お館様に天下人になって頂きたいが……いっそ誰が天下を取ろうと、戦が終わら せられたらと思うのだ」


主の突然の言葉に、佐助は危うく木魚を取り落としそうになった。

平素、あれほど信玄を尊敬し、信玄が天下統一を果たすことを願っている幸村の言葉とは 思えなかったから。

「一体どうしたの?まさか暑さで気分が悪くなった?」

「……佐助、俺は幼い頃に戦で父上を亡くした」

また唐突に話題を振られ佐助は訝しむが、静かに聞くことにした。

この主の話はいつも飛躍していて、けれどどこか理が一筋に通っていると、理解していた。


「俺は有り難くもお館様に育てて頂き、お前に面倒を見て貰ってここまで…家督を継ぎ、 こうして父上の供養が果たせるまで成長する事が出来た。お前達/十勇士もいてくれたから、 それまでの日々が辛かったとは思わぬが…」

それでもあの子等に俺と同じ思いはさせたくないと思うのだよ

「旦那…」

「読経を聞きながら、父上の事を思い出した。これまでの事も。そうしたら、ふとそう 思った。御仏の教えは、祈りの声なのだな」



平和で在れと願う

人の子の声



「悟りでも開いたつもり?」

「そうかもな」

「寧ろ親の心境かもね」

「そうなのかもしれぬ」


至極真面目に、幸村は頷いた。


「だったら、チビ共のためにも生きて勝って下さいよ」

「無論、だ。…ああ、それはお前にも言えるぞ佐助」

「俺?」

「俺にとっては、お前は『母親』なのだからな」

「『母親』、ね」


当然のこととして言われ、佐助は思わず苦笑を漏らす。


全くこの人といると、忍であることを忘れてしまう。

家族だと、そう思ってしまう、と。


しかしそれは、困惑しながらも、悪くない感覚であった。




『祈る 悟る 願う』




あとがき

法事で読経を聞いていて、ふと思った事から。まんま自分の思考を幸村に述べて貰った ものです。自分が不幸だなんてこれっぽちも思っていませんが、だからと言って、 同じ思いをする子供は見たくないな、と。出来れば幸せになってほしいものです。
10代組を書いていると、妙に幸村を親に書きたくなります。
抹香臭く、青臭くありますが、たまにはそんな願う話も。

ここまで読んで頂き、有り難う御座いました。






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