彼の人の情愛は


攻撃的で暴力的で時に猟奇的で


常に、何かしら血を見なければならないのは気のせいではない



久しぶりに逢ってまず、耳に穴を空けられた。

否、耳は穴であるが、正確に言えば耳たぶを

錐のように太い針で一突き。


「―――っ」


刀で切られるのとは違う、文字通り刺すような痛み。

一点に熱が、神経が集中する。


「政宗…殿?」

「ちぃとばかし我慢しな、幸村」

「あ、ぐっ―」


訳が分からず相手の名を呼ぼうとすると、熱持つそこへ力が加わった。


「つぅ…何、を?」


穿たれた穴に、何かが差し込まれる。

大きさが合わないのか、入り口でつかえているのを無理矢理ねじ込んでいく。

肉が抉られる感触と、異物が内へ侵入っていく不快が、直接脳髄を刺激する。


「―――っ」

「大人しくしてろ。もうすぐだからな」


それは数瞬のことであったが、己には数刻に及ぶ責め苦のようで


「OK,いいぜ」


カチリ


異物が埋め込まれ留め金をかけるような音がした時には、不覚にも目が潤んでいた。

滲む視界に、満足そうに笑みを刻む彼の人が映る。

先が赤く濡れた針を左手に、そこからしたたり落ちた血で汚れた右手を、舌で舐め取る。


「Ha!なかなか似合ってるじゃねぇか」

「似合う…?一体某に何をされた?何か…某が政宗殿のお気に障るようなことをしたで 御座るか?」

「別に、お前は何もしてねぇし、これはお前をいたぶるためのもんじゃねぇ」

「そう…で、御座るか?」


その割に、随分手荒なことをされたが―――


「ではこれは」


釈然としない顔へ、押しつけるように手鏡が差し出された。


「自分で見てみるんだな」


言われるままに鏡を取り、傷つけられた耳たぶを覗き見る。

その縁は少し腫れて赤味が差し、一筋血が流れて痛々しい。

赤に染まるそこで、埋め込まれた異物だけが別の彩であった。


光を弾き輝く蒼の石


それは彼の人の雷光に似て―――


「これは?」

「ピアス。外つ国の飾りでな、耳に穴を空けて見せるんだよ」

ちなにみそれは瑠璃だ。

「飾り…血が出て痛いでは御座らぬかっ!?」


空けた直後の痛みが消えると、今度は呼吸に合わせてズキンズキンと痛みが脈打つ。

とてもではないが、装飾のために出来ることではない。


「その内血も止まるし、ずっとしていりゃ穴も埋まって身体の一部になる」

「何故この様なことをなさる?」


相手の意図が読み取れずに尋ねると、その問いを待っていたのか笑みが深まる。

加虐の微笑。


「印さ、お前が俺のだっていう」

「なっ…」


思いもよらぬ答に絶句する。

途端、更に耳が腫れるほど顔が赤くなるのを感じた。

何故彼の人の言動は、思考は…


「破廉恥で御座るっ」


なのだろうか。

不意をつかれ、不覚を取られる。


「どこが破廉恥だよ。まっとうな所有権を主張して何が悪い?」


悪びれもせず、衒いもなく、素のまま返された言葉。

当然のことと、言い切られてしまった。


己は既に、此の竜に囚われているのだと


「けれど、何もこんなことをされなくても…」


拭えない違和感に、耳の石に触れる。どうにかして慣らそうと弄るが、ねじ込まれた異物 はその存在を主張しつづける。


身の内に異なるものを侵入れられる感覚は

どこか、他者と身体を繋げることに似ていて

知らず、犯されるように彼の人と初めて交わった時の、痺れるような痛みを思い出す


「An?だってよ、刀で斬っても傷は塞がる。痕をつけてもすぐに消える。
お前の中に俺を刻み込むには、これがいいと思ったんだよ」


痛みを持て余す指をのけて、彼の人の手が石を強く押す。

更に奥へ、石は食い込む。


「――っ」

「気になるだろ?これなら消えることもねぇし、何より痛みで、感覚で、俺を思い出す」

「う…」


先程の己の思考を、浮かんだ情交の光景を見抜かれたようで、激しい羞恥心に身を焼かれ る。

息も出来ない。



彼の人の情愛は


攻撃的で暴力的で時に猟奇的で


そしてその欲はどこまでも深い


穿たれる異物


脳髄に刻まれる痛み



心はとうに奪われ

身体は貪られた

その上感覚までも―――



尽きない独占欲

気付いた時には、既に手遅れ

逃れることなど出来るはずない



「やはり政宗殿は破廉恥で御座る」

「いい色だろ?お前もその内気に入るぜ」


楽しげにまさぐる手に

くやし紛れの抵抗を


「されど、親から貰ったこの身体、戦以外で傷つけるなど…」


口にしてから後悔する。

墓穴を掘る。


「…失礼っ、申し訳御座らぬ」


完全に己の失言であった。


「…別に、気にしちゃいねぇよ」


潰れた片目を右手で覆い、彼の人は低く嗤う。


「んなに大事な身体なら、これ/石もその一部だと思って大事にしろ」


そして一気に距離を詰めて

相手の顔が近いと感じたときには


「そして頭に叩き込め」


レッ…


「この痛みが俺だってな」

「ふっ…」


微かに乾いた傷口を、石ごと一舐め。

身の内に痺れるような欲がわき、熱をはらむ。

それは相手も同じで、触れた場所から求める熱が伝わった。

その間にも腕は取られ、気が付けば抵抗する間もなく組み敷かれていた。


絆されればつけいられ

隙あらば食い荒らされる


此の竜に情けなど無用で

囚われ、行き着く先まで堕ちてしまった虎はただ

覆い被さる相手の心臓に爪を立て


「なら、政宗殿も覚えて下され。この痛みが某だと…」


獲物目掛けて噛みつくように口付けた。


深く

強く

己を彼の人の内に残すために








思い出すよじゃ惚れよがうすい



  思い出さずに忘れずに












後書き

久しぶりのお題です
いつもどっちが上下なのやらですが、今回はダテサナで。予定ではこの歌はチカサスで したが、久しぶりにネタが降ってきたので現状に;;自分には各CPのイメージがあるらしく、 この二人は何故か舐め合うと言うのが根強いです。幸村は無意識に相手を救う、癒すと 言う想いの表し方をしますが、政宗は反対に想いが強すぎて壊す、傷つけるという イメージがあったり…(痛)。破廉恥と流血を履き違えているのは充分自覚してま すorz
この「思い出すよじゃ〜」は都々逸だけでなく、小唄や和歌など昔からあるテーマなよう で。現在でもあゆの『HANABI』にある「君の事思い出す日なんてないのは 君の事忘れた 時がないから」に繋がっているのかなと勝手に思ってたりします。何百年たっても 変わらない想いなのかなと、しみじみ感じたりします。

ここまで読んで頂き、有り難う御座いました。





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