ポラリス









「あっちがオリオンで、その下がうさぎ」


コートにマフラー、手袋帽子、耳当てまでと完全防備に


「そのまた下の小さいのがノアの鳩」


まだ心配だからと毛布も持って、三人くるまり


「メロは目が良いのですね、あんなに小さい星をすぐに見つけられるのですから」

「へへっ」


折角だからと紅茶をポットに詰め(勿論お菓子もバスケットに)


「引き籠もりのお前には、知らない星ばかりだろ?ニア」


星をランプに、吐く息白く、夜のピクニック

夕方久しぶりに帰ってきて、明日の朝にはまた行ってしまう彼の人が

私たちのために作ってくれた時間


「……ええ、消灯過ぎに抜け出さないと見られない星なら、私は知りません」

「なっ…!ボクは抜け出したりなんかしてない!!いつも予習が終わる頃にちょうど 窓から見えるんだ…」

「そんなに夜遅くまで勉強してるんですか、メロ?」

「う…うん、だってなかなか1位になれないんだ」

どっかの頭でっかちは勉強しなくても平気みたいだけど

「努力家ですね。でも、やりすぎは身体に毒ですから気を付けて下さい」


やんわりとまとめられて、私たちは一枚の毛布の中で共存を


「私もいつも中ですからね、夜外を見ることはあっても、そんなに星は見てないんですよ。 でも、ニアは早く昇る星なら見たことあるでしょう?」

「はい。宵の明星なら…」

「それって夕方じゃないか」

「私は誰かと違って夜更かしするする必要ありませんから、早寝なんです」

「この…!」

「と言うのは冗談です。夜の星も知ってます」


たった、一つだけ

違えることなどない

揺らぐことなどない

絶対的な


「あの星です」


天を指す

君臨する星


「あの星はLです」


しるべの星


「私、ですか?」


己を指さし、戸惑う人

不意に手を叩き、笑う半身


「Lの星か!!お前なんかにしちゃ最高の答だよ、ニア!」

「そんなに大それたもんじゃありませんけどね…私」

「そんなことない!あれはLに相応しい星だよっ!」

「『私たち』にとって、貴方はあの星なんです」


何処にいようと、何処に在ろうと

変わらず頂きで導いてくれる

想いは図らずも、私と半身、両方の口をついて出た


『貴方は北極星だ!!』


それは正しく彼の人に伝わっただろうか?

誰よりも賢く優しい彼の人に

想いを告げるには、形にするには

私も半身もその時はまだ幼く拙く

ただ、もどかしさと必死さだけが空回りしていて

彼の人がその時、どこか嬉しそうに紅茶を飲んでいたことに気が付いたのは


酷く時間がたってからだった


今思えば何と悔いの多い

優しい時間だったか








『炎上、崩壊した教会の中には2tトラックとオートバイがあり―――…』


音声が遠い

視界が明るい

手に、絨毯の感触……


『犯人と思われるもう一体の身元の割り出しは困難を極め―――……』


現実の疎遠

記憶の混乱

確かな喪失


この感覚は久しぶりだ


「ニア…」


遙か遠くから、レスター指揮官の声


「ジェバンニから通信が」

「はい、繋いで下さい」


古傷とは言えない生々しい痛み

彼の人/Lを喪った時の―――


『ニア、確認が取れました。やはり本物を隠していたようです』

「そうですか、なら…レスター指揮官、『L』の方へ」


同じ感覚、だった


しるべの星は覆われ、半身はもがれた


それでも


「…では『L』、明後日28日に」

『はい』


それでも私は


「ジェバンニ」

『はい』

「間に合いますか?」

『はい、大丈夫です』


今でも変わらず

空を

星を


「………ジェバンニ、今外にいますか?」

「はい、今、魅上の自宅近くにいますが…?」

「そこから星は見えますか?」

「はい?」

「北極星は、ちゃんと見えますか?」


貴方を

仰いで、目指して


「………はい。晴れて良く見えます。そちら/東京では見えませんか?」

「生憎、ここ/東京は光が多すぎます。そちら/京都より空に近いと言うのに、不思議な 話です」


しるべの星よ

至上の人よ


「そうですか…見えるのなら、良いです」

「ニア?」

「レスター指揮官、リドナー、ジェバンニ」


不落の光が侵されてしまったのなら


私が覆う暗雲を払いましょう


私たち/NとM が

貴方/L の 光/名前 を取り戻しましょう




「がんばりましょう」


尽きせぬ想いと命に賭けて












ポラリス(Polaris)
「現在」の北極星。北極星は何千年かごとに天の北極からずれ、様々な 星が「そこ」に登り、「そこ」を去る。けして不動ではないが、 地上に今生きる私には貴方が不動であることに何も変わりない。

「L」の名を取り戻し受け継いでも、至上の人はL一人。そんなニアの讃辞。 そして決意。





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